花束を

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西野亮廣さんで学ぶ行動経済学

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初めに

キングコングの西野さんは、月額980円〜のオンラインサロンビジネスをやっていたり、詐欺まがいなクラウドファンディング商法をしたりしていることが話題になっていますよね。

そんな中、「やり方は汚いけど、西野さんから学べば自分も成功できるのでは?」と考える人もいるようですね。

しかしだからといってわざわざ彼のSNSなどに張り付いて観察したり、サロンに入って講義を受ける必要はありません。

なぜなら、やっていることはただ行動経済学を利用しているだけだからです。

ということで、今回は西野亮廣さんを例に行動経済学を学んでいきましょう!

 

 

 

ゼロコストの利用

だったら、もう『お金』なんて要らないです。
僕とあなたの間から『お金』を取っ払います。
『お金』を払いたい人だけが払えばいいようにします。

 


僕の財産は、『えんとつ町のプペル』という《作品》だと思うのですが、
個人の財産を個人が独り占めするのではなく、分配し、皆の財産にしようと思いました。
皆が豊かになった方が、巡り巡って自分も豊かになるだろう、と。
『ギブ&テイク』ではなく『ギブ&ギブ』。
自分のことだけを考えても、その方が良いだろうと結論しました。

 

 

 


お金の奴隷解放宣言です。

抜粋元:キングコング 西野 公式ブログ - お金の奴隷解放宣言。 - Powered by LINE

 

字面だけ見ると格好良いですね。

『ギブ&ギブ』……なるほど。

 

以前話題になった絵本『えんとつ町のプペル』を無料公開についての記事です。

当時は「西野さん凄いなぁ」と感心したものですが、どうやら読者からはお金を取らないだけで、収益は得ていたようです。

 

キンコン西野 大ヒットした『えんとつ町のプペル』を全ページ無料公開!キュレーションメディア『spotlight』から広告収入が入る仕組みに唖然 | Foundia(ファウンディア)

そもそも絵本を無料公開するだけなら自分のLINE BLOGで公開すればいいはずだから、わざわざ収益を見込めるキュレーションサイト『spotlight』を使う意味が分かりません。

ここで西野さんは『無料!』というゼロコストを利用して商売をしています。

要は『無料!』とすることで大きな購買促進(ここではPV数稼ぎ)を実現しているということです。

 

 

ゴディバのチョコと袋売りのチョコ

「1個50円のゴディバチョコと1個10円の袋売りチョコ」が並んで売られている様子を想像してみてください。

普通に考えれば、多くの人がゴディバチョコを買うはずだと分かりますよね。

何せ普段は1個200円以上するものが4分の1以下で買えますからね。

参考:ゴディバのチョコレートはバラ売りもしてる?一粒いくら?おすすめの種類は?|カフェを楽しむ!

 

ところがこれをそれぞれ10円引きして「ゴディバチョコ1個40円、袋売りチョコ1個0円」とした場合どうなるでしょうか。

面白いことに、今度は袋売りチョコの方がよく売れるようになるのです。

この現象は、人が『自分の所有物を少しでも失うことの痛み』を感じるもので、逆にゼロコストであることで失う痛みを感じる心配がないからだと考えられます。

少額でもお金を払うのは躊躇われるが、『無料!』なら気兼ねなく支払えてしまう訳です。

支払える、と表現したのは、Amazonプライムのように「送料無料」でも別でお金が掛かる場合もあるからです。

 

この『無料!』効果を利用すれば、紙の絵本を購入する潜在客を多少逃したとしても、その絵本に全く興味がなかったその他大勢を『無料!』で釣ることでPV数を稼ぎ、多額のボーナスを期待することができます。

西野さんは費用便益分析を行った結果、ネット上での無料公開を行った方が都合が良いと考えたのでしょうね。

 

 

一番の《財産》の活用

「僕の財産は『えんとつ町のプペル』という《作品》」などと言いながら、実際は最近辞めた吉本興業の力を使って得た圧倒的な《知名度》と《信頼》が一番の《財産》だと言うことを理解していたのでしょうね。

訂正:エージェント契約を結んでいるため、吉本興業を辞めてはいないです。

と思っていたら、故意的に騒ぎを起こして口実を作ってから辞めましたね。

表向きは無料公開に踏み切って《お金の奴隷解放宣言》を実行した善人を演じながら、裏では知名度に押し上げられた広告収益をちゃっかりと得る仕組みを作った訳です。オマケに弱きを助ける《善人》だというイメージも手に入るのですから完璧です。

 

当然ながら、元々《知名度》も《信頼》もあった西野さんだからできたことであるため、簡単に真似できるものではありませんね。

 

 

 

社会規範の利用

さて、このゼロコスト戦略で勝ち得た《善人》や《成功者》というイメージを使って次に行ったのがオンラインサロンの開設です。

オンラインサロン | 西野亮廣エンタメ研究所

 

ここでは既にGoogleなどの大企業も活用している『社会規範』という仕組みを利用して、ファンに無償で仕事を手伝わせることに成功しています。

 

これと対になるのは『市場規範』です。

簡単に違いを説明すれば、以下のようになります。

    『社会規範』:助け合いの世界

    『市場規範』:お金至上の世界

 

例えば家族の役割として家事手伝いを任されていれば、嫌々ながらもやりますよね。

ところが、同じく家族から「家事手伝いを1日100円でやってくれ」と言われればまずやらないはずです。やるならもっと日給は高い方がいいです。

ちなみに人は基本的に自分の所有物(仕事なども)を高く見積もる傾向があるため、専業主婦の方々が「家事を年収換算すれば……」といって高額になることが多いのはそのためです。

 

なぜならお金が絡む『市場規範』の世界は情がなく、ただお金の多少が問われるからです。

一方、家族や友人との関係のように『社会規範』の中に留まっていれば、情がある、助け合いの精神が生まれます。

ならば企業としては満足させるのに高くついてしまう賞与よりも、間接的にしかお金が関わらない無料の社員食堂サービスなどを提供した方が安くでき、その上熱心に働いてくれるようにした方が都合が良いですよね。

 

特典その3
「イベントの参加」
プロジェクトのミーティングや勉強会や、オンラインサロンメンバーの分科会がたくさん作られています。全国規模、さまざまなサロンメンバーがオンラインサロンを通じて“ともだち”になっています。各種イベントへの西野亮廣へのオファーや、飛び入りで西野亮廣が乱入することもあったり。

彼のオンラインサロンの特典その3の説明では"ともだち"が強調されています。

月額料金を徴収しつつも、上手く『社会規範』の中に入れ込むことで、特典その2のアイデア出しという本来はお金を払ってやってもらう仕事を無償でさせることに成功しています。

 

 

推しとファンの関係

少し脇道にそれますが、推しとファンの間には温度差があると考えた方が良いです。

ファンからすればお金を払っていたとしても、学校で毎日見かけるクラスメイトと同様、動画や画像、SNSなどを何度も見るうちに次第に親しみを覚えていきます。

一方で推しはお金を受け取る側であり、プレゼントやCD売上の多寡など他人と金銭で競う市場規範がすぐ近くにあります。

その上、そもそもファン一人一人を毎日見るわけでもないため、ファンが抱くほどの親しみを持ちづらい状況にあります。

ですから、仮に握手会などのいわゆる接近イベントがあり、そこで推しに『塩対応』されたとしても仕方がないと割り切った方が良いです。

西野さんの場合はかなり拝金主義気味なので、温度差はかなり大きいはずですから、何か親しみを演出することを仰っていてもリップサービスの可能性が高いと思った方が良いですね。閑話休題

 

 

 

自己ハーディング

「月額980円なら大したことはないし入ってみようかな。どうせすぐに辞められるし」

そう思っていたら結局ずるずると毎月支払いを続けてしまっている、なんて言うことはありませんか。

これは最近人気のサブスク(サブスクリプション方式)にありがちなことで、『自己ハーディング』を利用しています。

ハーディング "herding"とは「群れる」という意味で、例えばラーメン街のとあるラーメン屋に行列ができていたとしたら、勝手に「こんなに行列ができているのだから、美味しいに違いない」と考えて列に並んでしまうことを言います。

よって、『自己ハーディング』は自分の以前行った行動を受けて、次もまた次も、と同じ行動をしてしまうことを言います。

これは以前この『選択』をして『良い結果』が得られたのだから、次も同じ『選択』をすればまた『良い結果』を得られるだろうという考え方に基づいています。

 

 

YouTube Premiumの例〜

私の友人にYouTube Premiumの無料期間を利用していたつもりが、結局辞めずに利用し続けてしまっている人がいました。

広告を無視できたり音楽が聴けたりするというメリットを捨てられなくなっていた様ですね。

この例を見ると、以前行った「YouTube Premiumを利用するという『選択』をして多くの『良い結果』が得られた」という経験から、翌月もその次も継続利用してしまうという『自己ハーディング』が起こっていたことが分かります。

 

サブスクは便利で月額料金も安いため、毎月積極的に利用していれば問題ないかもしれませんが、案外年額で考えればお世辞にもコストパフォーマンスが良いとは言えないものもあります。

YouTube Premiumを例に取ると、音楽配信サービスなら半額以下で利用できるものもありますし、長くて15秒の広告をカットするメリットが本当に支払う料金に見合うのか考えるべきですね。

ちなみにiOSアプリからPremiumに登録すると400円ほど高くなるので注意してください。

 

 

 

恣意の一貫性の利用

人は最初の価格が「恣意」的なもので、でたらめであったとしても、一度それが自分の中で定まると、それがある商品や関連商品の価格判断の方向性を決めてしまいます。

例えば今のカップヌードルは高いと感じませんか。

私の知っている限りでは、以前はスーパーのカップヌードルが80〜120円くらいで売られていました。そのイメージが強く残っているため、内容量は変わらず150〜180円で売られているとどうも高く感じてしまいます。

 

このように、最初に自分で定めた価格がアンカー(船のイカリ)になり、それ以降の判断に影響を及ぼすことを『アンカリング効果』と言います。

それでは西野さんの例を見ていきます。

 

 

 

『仕事』を『遊び』に変える

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えんとつ町のプペル』に出てくる(?)木の時計台を自分の地元に作り、町興しをしようとしてクラウドファンディングを行っていました。

にしても凄まじい額ですね。これは腕の立つデザイナーや職人を起用してさぞ精巧な時計台を創造してくれることでしょう!!!

 

 

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……ん?

お金を徴収しておいて、今度は仕事をさせるのにお金を払うのではなく貰うのか……。

皆さんはそう感じたことと思いますが、利用者の方々はそうは感じないように工夫されています。

 

SILKHAT - 『木の時計台を作りたい』 byキングコング西野│SILKHAT(シルクハット)吉本興業のクラウドファンディング

上のクラウドファンディングサイトを見れば分かりますが、大体は本来お金を払う必要のないモノばかりです。

ここでは『仕事』を『遊び』に変える転換が行われています。普通ならお金を払って『仕事』をしたいという人はまずいないでしょう。しかし、それが『遊び』に変われば話は変わります。

元々『社会規範』の中に組み込まれているファンにとっては西野さんの『仕事』を手伝うことにあまり抵抗はありません。

オマケに"ともだち"を演出しているわけですから、文化祭の準備のようなワクワクする『遊び』感を演出しています。

要は、本来煩雑な『仕事』を「そんな楽しい体験ができるならお金を払ってでも参加したい」と思える『遊び』としてアンカリングさせている訳です。

一度アンカリングさせることに成功した人は外野の人ならまず買わないような「会った時に言って頂ける」などという商品を購入するのも厭いません。

 

https://www.google.co.jp/amp/s/kinako-mama.com/4212.html%253famp=1

↑木の時計台の件についてまとめてある記事です。

これは流石にやり過ぎでは?と思いますけどね。少数の素人が寄り集まって作った訳ですから、お世辞にも良い出来だとは言えませんし、本気で町興しを期待していたのならプロを雇って金に糸目をつけず大々的に行うはずです。

拝金主義、ここに極まれり。ですね。

《お金の奴隷解放宣言》とは一体何だったのでしょうか。

 

 

 

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本人不在とはバカリズムさんのSMプレイネタを思い出しますね。

 

 

 

行動経済学について

以上ご紹介してきた通り、西野さんは特段革新的なことをやっている訳ではなく、AmazonGoogleなどの有名企業が今まで散々活用してきたような行動経済学を利用しているに過ぎません。

だからわざわざサロンなどに入らず、行動経済学を学んだ方が遥かに役に立つこと間違いなしです。

 

行動経済学についてもっと詳しく知りたい方はダン・アリエリー著『予想どおりに不合理』を読んでみてください。

身近な話題を扱っているため、あるあるを楽しみながら読めると思います。

 

 

普段自分の意思で選んだと思っていた行動が、実はただ自他に利用されていただけだと分かると悲しくなりますが、それでも自分の行動理由を理解すれば対処もしやすくなります。

 

 

 

最後に

勿論仕組みは簡単でも実行するのは難しいです。その点においては、自分の《財産》をよく理解して利用できている西野さんは天才ですね。

最初のゼロコストの話でも言ったように、《知名度》や《信頼》がないとこのようなビジネスを始めるのは厳しいですが、一度軌道に乗れば管理は容易いです。まさに宗教だからです。

 

 

認知的不協和理論

心理学の話になりますが、彼のビジネスが宗教性を帯びているのは上の木の時計台の例を見れば分かります。

傍から見れば明らかに異常な状況であっても、勝手に自己解決して更に信心向上に繋げてくれるためです。

詳しくは下の記事を読んでみてください。

【読書備忘録】『予言がはずれるとき』(1956) - 河原に落ちていた日記帳

 

 

どこまで個人の自由を尊重するか

「騙されていたとしても、本人が幸せならそれでいいじゃん」と思う方もいらっしゃると思いますが、果たしてそうでしょうか。

SNSなどを通じて他人の生活や企業広告を多数目にするようになった現代において、本当に自分が望んだ選択かを判断することは容易ではありません。

 

また、誰かが嘘をついて出し抜いた場合、「嘘をついた方が得する」ことになってしまいます。そうすれば誰も信用できなくなりますよね。

取引において信用は不可欠です。信用が失われたことで取引が成立しなくなれば社会全体の効用は縮小し、嘘をついた本人すらも却って損をするようになります。決して他人事ではありません。(参考『共有地の悲劇』)

 

本来こういった話は書籍や大学の学問に押し込めておくのではなく、もっと人口に膾炙する必要があると思います。

そうすればある程度は正直者が馬鹿を見るような状況は減らせるはずなんですけどね。

勘違いしないで欲しいのは、仮に誰かが怪しげな拝金活動をやっていたとしても、必ずしもその人が悪いとは限らないということです。

言わずも自分が同じ立場なら同じ行動を取っているであろうことは容易に想像がつきます。

現世の神はお金なのかもしれませんね。

 

 

 

 

[追記(2021/1/19)]

最近吉本興業を辞めたのはオリエンタルラジオの方でしたね。誤っていたため訂正を入れました。

[追記(2021/2/11)]

結局辞めてしまわれたようですね。

吉本興業のエージェント契約がどういうものなのかは分かりませんが、アメリカのエージェント制度を例に考えれば、

吉本興業という事務所に所属 ✗

・事務所に所属するエージェントを西野さんが採用 ○

つまり主導権は西野さん側にあるということですから、「なんか偉そうだなぁ」という考えは少々的はずれかもしれませんね。